中措 大樹さんの留学報告

留学に対する提案

留学の必要性

MBAへの留学を通して社員教育を施し、培った力を企業経営に貢献させるということが留学の大きな目的である。留学で学ぶことは多い。日本国内での業務研修とは明らかに袂を分かち、それは学術面のみならずビジネス・文化・生き方に及ぶ。留学制度は、当社の社員及び入社を希望する学生にとって高尚な目標にもなり、勝ち取るために切磋琢磨し、それが日常業務においてもベースアップに繋がると考える。留学の費用に関しては、約2年という長期間にわたるため相当の額が発生する。これを社内における投資とみなすか否かによって、留学に対する姿勢も変わる。プラント建設業界においても、人を一つの資源と見なすべきである。物を作る、物を売ることは、それを行う人の質によりビジネスが左右されるといっても過言ではない。従って、社内教育の一環として留学は価値的な将来の投資だと考える。

MBAコースの選択

MBAコースは経営全般を学ぶため、国際営業部に限らずどの部署においても必ず役立つ。もちろん、エンジニアがより専門的分野を学ぶためには、その方面へ留学した方が効果的だと思うが、MBAの経営的観点は今後プラスになるはずであり、実際多くのエンジニアがMBAを取得している。MBAコースを社費留学とすることは、社内全員に留学機会の門戸を開くことになり、社員全体のモチベーションの向上になると考える。

AITの選択

日本企業はとかく欧米に目を向けがちだが、今後さらに大きなマーケットとして期待できるアジアでMBAを取得することは多くの利点がある。講義の内容・教科書も欧米諸国のMBAスクールとは変わりなく、殊にアジア地域にビジネスの拠点を置いている当社には優位な点が多い。

AITは、アジアのMBAスクールの中でも、特にアジア全域をカバーしアジア全体の視点の授業を進めているため、当社には的確なスクールといえる。例えば、シンガポール大学のMBAは、確かにAITより学生の学力レベルは高いが、内容はシンガポール人のためのシンガポールの視点を中心に講義を行っているため、アジア全体の人脈・視点は築けない。もちろん、AITにおけるデメリットもある。 

など様々あるが、それらをハンディキャップとせず自身で補ない努力すればメリットに変えることができる。私は、英語力向上のため独自に英語を勉強し続け、情報収拾のためJETROタイや国連タイ本部に足を運んだ。これによって英語力が大分伸びたと思うし、新たな人脈も発掘できた。

留学生の選考方式

MBA留学を経験させてもらった一人として、選考方式に関して下記の通り提案がある。

社員全員に留学へのチャンスを均等に与え、そして選抜された留学生を定期的に派遣することにより、社員の目標が高まり目的意識が明確になると考えられる。

留学生の選考基準

留学生の選考基準に関しては、下記の3点を考慮すべきである。

英語力に関しては、TOEFL 550点以上(自分の考えを的確に述べることができる英語力)得た社員を対象にすべきだと考える。海外のMBAの授業はもちろん英語、その上に経済学・会計学等を勉強するのである。私が文章で表すと簡単なことに思えるだろうが、日本語でさえ難解な統計学を英語で説明されてもピンとこない、授業中やグループ学習での多くの発言の場で私でさえ最初は気後れしたものだった。

MBAは通常3〜5年以上の実務経験が必要とされている。実務経験のない学生もいるが、非現実的・教科書的な内容の発言しかできず、それで卒業後の仕事に活かせるか疑問である。業務の中で身につけた知識や方法を学問的に裏付け、さらに発展性を持たせることが必要である。私は、当社で行っている3年目論文を終了した社員が留学生に望ましいと思う。なぜなら、この論文で培った内容やプレゼンテーションの方法などの経験がMBAでも活かせるからである。

MBAと聞くと、営業と連想してしまいがちだが、のみならず、会計・財務・エンジニアリング部門にも関連しているのである。実際、各国の学生の半数はエンジニアリング畑出身である。今後、エンジニアも会社経営という視点に立った仕事の遂行が必要となってくるはずだ。それゆえ、国際営業本部や事業部など部門を問わず、実力のある者を留学生として選考すべきだと考える。

生活に関して

留学はもちろん勉強するために行くのであるから、優雅な駐在員と全く違った生活になる。しかし、予算の許す範囲でできる限りのバックアップを期待したい。 まず、生活の場である住居は安全でしかも衛生的な所に構えるべきである。留学当初は、学生寮に住むことが前提になっているが、アジア諸国の学生寮と呼ばれる建物は日本では想像だにできない程悲惨なものである。勉学に集中するためには、例えそこが大学と離れていたとしても、現地管理会社を通ししっかりとしたところを選ぶべきである。他の日本人企業派遣の学生は、皆、大学外の日本人向けアパートメントに住んでいた。その友人宅は大学からは車で15〜30分かかるため一概に良しとは言えないが、選択幅を持っておきたい。私の場合は、3畳一間の灼熱の独身寮に4ヶ月、その後、妻の渡タイに合わせて家族寮に移り、そして昨年10月からは新設された寮に入寮した。私は良い環境を求めてステップアップしていったので既に不満はないが、今後留学生の住居に関しては、事前の入念な下見・検討が必要である。

アジア諸国での留学生活は、勉強と生活の両方にプレッシャーを感じ、また独身寮にいると孤独との戦いになる。事実、毎年何名か精神的な病気になり病院へ行く、または一時帰国するといった学生がいる。日本は好んで単身赴任者を海外に出すが、行き詰まった時、何よりもの支えは家族であると思う。共に生活するとことによって、苦労を半減させ喜びを倍にすることができるのである。

その他の学部:CM学科

AITの土木工学部は、当社の事業内容と関連がある。その中の一つConstruction Management 学科(以下CM)へ、日本のゼネコンから多くの学生が派遣されている。コントラクターとして成功するためには工学的な知識はもちろん、経済・経営・法律といった幅広い知識を身に付けていなければならない。こういった広い範囲を一つのパッケージにしたのがCMであり、AITが力を入れている学部でもある。経済学という点ではまず、トランスポーテーションプロジェクトを題材に、高速道路や港湾などが整備された場合の経済波及効果の評価方法(消費者余剰、効用分析など)を概念的に学び、ケーススタディを取扱うものがある(Project Evaluation and Appraisal of Transportation Facilities)。その他、経済的な観点からの意思決定方法やリスク管理の方法(Economic Decision Analysis)、Value Engineeringを通じて真に価値あるプロジェクト立案(Procurement Management)などを学ぶ。経営学においては、マネジメントの概念(Principles of Construction Management)や、人間を自発的に働かせるにはどうすればよいかなどHuman Resources の本質をいかにマネジメントに適用するかという科目がある。法律では、施主・コンサルタント・コントラクターの法的な契約関係や論争・クレイムの解決方法、契約締結時におけるリスク配分の基本、FIDICに基づく契約条件などを広く勉強できる。近年、建設業界の特異な体質が世間で取沙汰されているが、その体質改善の鍵の一つは、このような教育プログラムによる幅広い視野・知識・感覚をもった人材の育成であるように思える。また、日本の産業の自由化、規制緩和が促進される中、国際的な競争力を養う意味でのCMプログラムへの留学も価値あるものだと思う。この学部は、専門的な分野のためエンジニアのバックグランドを持った人のみ有効だと考えられる。


  1. はじめに
  2. MBAについて
  3. AITの紹介
  4. 各国の学生
  5. AITへ留学する方へ
  6. 留学に対する提案
  7. 添付資料:AITの紹介(タイ日本人会会報「クルンテープ」への掲載記事より)

[AITでの活動報告]
須崎純一 京都大学大学院 工学研究科社会基盤工学専攻 空間情報学講座