戸室梢の近況報告

都市環境マネージメント研究科では、持続可能なアジア都市開発のための都市環境計画、都市政策を学び、個人研究としてバンコクの都市貧困者についてフィールドワークを中心とした研究を行っている。

個人研究について

私は2001年度に東洋大学とAITの主催によるワークショップがきっかけでAITを知り、その際にできたタイの友人やスタッフを通じて翌年から毎夏バンコクに渡り、一般に’貧困者密集地域’と呼ばれる’スラム’でホームステイをしながらスラム開発に関する研究を続けてきた。バンコクのスラムは都市の急速な成長と共に増え続け、現在登録されているだけでも1,200を超え、実際には1,700以上とも言われている。職を求め局所的な人口集中のおきているアジアの都市では、教育、技術経験の未熟な人々が、不安定で低賃金な職しか得ることができず、空き地や沼地に自ら簡素な家を密集して建て、劣悪な環境、不十分な社会保障のもとでの生活を強いられている状況で、近年ようやく国際的に大きな都市問題として叫ばれるようになった。

バンコクのスラムは、これまで都市計画や政策からは別個の問題、ときには排除すべき対象として扱われてきた。タイでは近年、とくに1990年代以降から、ようやく彼ら自身の居住と生活の権利が認められ始め、彼ら自身によるコミュニティ開発が推奨されるようになる。現在そうしたボトム・アップ型のスラム開発は、様々な問題を乗り越えながら組織化され、ネットワーク化し、社会的・政治的・経済的にも注目を浴びるようになってきている。現在は修士論文研究として、AITで得たマクロな視点からの知識、技術、そしてネットワークを生かし、バンコクの都市開発における住民参加型のスラム環境開発について、末端であるスラムのアクターに焦点を当て、スラム地区にホームステイをしながら開発プロセス現状の分析とその都市開発と環境計画における可能性についての研究を進めている。今後はAITで得たネットワークとこれまでの調査実績をもとに、特に東南アジア各国の都市開発計画において、都市貧困者問題の側面から関わっていきたいと思う。

AITに在籍することの意義

私の所属している研究科では10カ国から、AIT全体では52カ国から国籍、職業、バックグラウンドも全く異なる学生同士が集まり寮生活をしているため、AIT構内ひとつのなかで異文化交流が盛んな非常にユニークな環境であるといえる。研究科によって異なるが、’Assignment’ Institute of Technologyと学生に皮肉られるほどレポート研究やプレゼンが多く、試験も’暗記’ではなく紙上で’ディスカッション’ させる欧米式であり、いやおうにも英語力はもちろんディスカッション、プレゼン、執筆能力の向上を図ることができる。特に異国の方とのディスカッションは非常に興味深く、一つのトピックに関しても同時に他国のケースを多々学ぶことができ、内外の柔軟性を養うことができる。また、試験前にはあちこちで友人同士による勉強会が盛んに行われているように、こうした1年目のハードなコースワークを同じ釜の飯を食しながら協力し合い乗り越えていく課程において、そこで得た知識・教養だけでなく友人同士の絆は特別なものとなると感じている。また、バンコク郊外に位置するAITは、都市部とのアクセスを保ちつつ緑も豊かであり、図書館・パソコン室も完備されているので、自らの勉学・研究に集中できる学生に適した環境にも感謝している。

日常の生活においても、異国における興味・関心はどの学生も一緒で、特に日本に関心をもっている学生も多く、友人を通して外から見た日本像、そして彼らの国の文化・習慣を日々学び、意見し合いながらお互いに楽しむことができる。また、AITではCultural Festival、Food Festival、Sports Festival、Trip…etc.と、様々な学生主催によるイベントが盛んであり、こうした国籍を超えたコミュニケーションは、自分自身の視野をも広げてくれ、ネットワークも広く強く繋がっていると感じている。個人的な話においては、卒業後、特に親しくなった友人同士で組織化したネットワークを各自の活動オプションとして作り、国境を越えて繋がっていくことを計画している。


[AITでの活動報告]
須崎純一 京都大学大学院 工学研究科社会基盤工学専攻 空間情報学講座