須崎純一の近況報告

近況の報告

AITに2005年2月に赴任してから8ヶ月経ち、2年間の赴任予定の3分の1が経過した。振り返ると、常に様々な問題に直面し、対処しながら、あっという間に過ぎた感じを受ける。

筆者は、京都大学大学院 工学研究科社会基盤工学専攻 空間情報学講座からSchool of Advanced Technology (SAT)の、Remote Sensing & GIS Field of Study (FoS)に派遣されている。リモートセンシングの分野においては、これまでも数多くの日本人教官が派遣されており、教育や研究活動において様々な貢献をしてきたと聞いている。現在はリモートセンシングの講義や、修士論文生を受け持ち、講義の準備や学生指導に追われる日々を送っている。

また普段は、Geoinformatics CenterというリモートセンシングやGISのセンターに席を置いて活動している。Geoinformatics Centerは、1995年に設立されたGIS Application Center (GAC) と、1997年に設立された研究中心の組織Asian Center for Research on Remote Sensing (ACRoRS) が2004年に統合されて設立された組織である。研究機関であるACRoRSは、京都大学大学院 工学研究科社会基盤工学専攻 空間情報学講座の村井俊治研究室や安岡善文研究室と長年に亘り共同研究を行ってきた。また、衛星データを受信、処理、解析する設備が運用され、処理データは定常的に生産技術研究所へ転送されてきた。一方、トレーニング機関であるGACは、宇宙航空研究開発機構 (Japan Aerospace Exploration Agency: JAXA)の資金供与により、主に東南アジア諸国の研究者、技術者に対して、リモートセンシングやGISの講習会を、センター内や相手国で開催してきた。1995-2004年の講習会では、延べ27ヶ国から900人以上の参加者を集めてきた。2005年からは講義型のトレーニングから、参加国の希望をテーマに据えたミニパイロットプロジェクトの形式に大きく変更し、プロジェクトの達成を通じたリモートセンシングやGISの技術移転を意図している。

狭い意味の本来の派遣業務には、このGeoinformatics Centerへの支援は含まれていない。しかし、Geoinformatics Centerでは幅広い専門家を用意しているわけではなく、技術指導の面で困難に直面することも多い。そのため、リモートセンシングに関する知識や経験を求められる機会が多く、ミニパイロットプロジェクトやトレーニング、衛星データ受信・処理の支援、および現地計測でのノウハウの教授を行っている。また、上述の京都大学大学院 工学研究科社会基盤工学専攻 空間情報学講座との長年の良好な関係や、リモートセンシング技術のさらなる普及を考えると、諸々の面で助言や支援を行うように心がけている。

このように、AITでの生活は、講義、学生指導、Geoinformatics Centerの業務の支援を優先的に行うため、自分の研究は後回しになってしまう。それでも、リモートセンシングの現地計測に適したサイトが多数あり、比較的容易に出掛けていくことができる。また、学生は比較的熱心であり、教育を楽しみながら過ごしている。

AITに在籍することの意義

私は日本の大学からAITへ派遣されてきた。私にとってのAITに在籍する意義は、下記の4つの観点に大別できると考えている。

まず、大学間協調の観点では、東京大学としても生産技術研究所としても、AITとは長年に亘り友好関係を築いてきた。上述のGeoinformatics Centerの設立においては、村井俊治東京大学名誉教授が中心的な役割を果たして、リモートセンシングを通じた研究協力関係が今でも続いている。また、都市防災をテーマにした生産技術研究所の都市基盤安全工学研究センター (International Center for Urban Safety Engineering: ICUS)は、AITのSchool of Civil EngineeringにRegional Network Office for Urban Safety (RNUS)という国際支部を開設し、教官を派遣している。単なる共同研究を通じた資金の提供などと異なり、教官を長期間にわたり派遣し、AITの教育、研究活動に貢献することで、お互いの大学の信頼性や評価が高まる結果となっている。貴重な教官を派遣する側としては負担が大きいと推測できるが、その負担を大きく上回り、中長期的な多大なる波及効果を及ぼしていると感じる。

次に、研究分野の発展としては、最も具体的に活動し、直接的、短期的な効果があると考えている。アジア諸国では、急速な人口増加や各種開発、自然災害などによって、深刻な環境問題が顕在化してきている。環境の現状を把握して、適切な保全対策を立案するためには、リモートセンシングに従事する研究者及び技術者が不可欠であるが、アジア地域では人材が不足している。現実に、東南アジア及び南アジア地域から、リモートセンシングの技術習得および本国への技術移転を目的として、アジア工科大学院に多くの優秀な学生が派遣されている。このような学生たちに対して、日本で蓄積されたリモートセンシングの知識や経験を教授し、彼ら自身で使いこなせるようになることで、リモートセンシングという学問分野の発展が期待できると考えている。

そして、人脈育成の点では、上述のように各国の優秀な学生に講義や研究指導、あるいは学外での交流を通じて、短期的な付き合いでは得られない深い信頼関係を築けると感じている。先日、参加したFoSの1泊2日の旅行では、教官や学生が各国でパフォーマンスを披露して楽しんだり、それをきっかけに話が弾んだり、様々な交流ができた。このようなつきあいは短期的よりも、むしろ長期的に大きな効果を発揮すると思う。例えば、東京大学大学院に留学していた研究者とAIT内のシンポジウムで会う機会があった。お互いに同時期に在籍していることが判明すると急に親近感が沸いて話が弾み、可能な限り研究も協力していこうという話になった。このAITで教鞭を執っていると、教官と学生と関係や、教官同士の関係から、同様の話が発展してくる可能性が高いと思う。

最後に、自分の研究の発展、研究能力の育成という点について述べる。ここAITでは、リモートセンシングの実利用という面から、学生や他学科・他学部の教官が様々な研究テーマや質問を持ちかけてくる。そのような契機に、自分が取り組んでいた研究テーマがリモートセンシングのほんの一部に過ぎないことを認識し、より幅広く取り組んでみようという気になる。日本にいてはこれまでの延長の枠組みで研究に取り組んでいることも可能であったと思うが、リモートセンシング一つをとっても、いろいろな取り組み方、視点があることを再認識し、研究者として成長するいい機会であったと感じる。

上述の項目以外にも、英語で講義する経験を積むことで教育能力が高められているとも感じる。このように、AITに在籍することで、数々の貴重な経験を積むことができることに感謝する。


[AITでの活動報告]
須崎純一 京都大学大学院 工学研究科社会基盤工学専攻 空間情報学講座