大深 純さんからの報告

国立マヒドン経営大学院
起業学科長
大西純

私がAITとかかわりを持つようになって既に10年の月日が流れた。その間、一時は博士課程の学生として、またあるときは非常勤講師として学生、教官の双方の面からAITの活動に参加でき、楽しいときを過ごすことができた。先人も既に述べてきたことであるが、AITにはアジアの他の大学には見られない人種の多様性がある。AITは世界各国から学生、教官および事務局員を受け入れてきており、キャンパスを歩いているとここはどこの国であろうと思うくらいいろんな人種が闊歩している。最近の資料によると1961年以来通算で60数カ国から学生をうけいれてきているとのこと、ある日本人教官はAITはミニ国連と言っていたがまさにその感がある。私が博士課程において、修士課程の学生と授業を共にしたときも、30人の学生のうち23人が外国人でタイ人が7名であった。国別には国費留学生等の関係から、中国、インドおよびヴェトナムが特に多かったが、その他は本当にいろんな国から学生が来ていたのを記録している。教官については私が属しているSchool of Management には8ヶ国から十数人が教えに来ており、事務局員についてはタイ語を話している者をあまり見かけたことがないので、同様ではないであろうか。

確かに他の地域、たとえばアメリカ合衆国の大学にも同じように多くの人種が共存しているが、これらの多人種は基本的にはアメリカ合衆国という文化圏に適応して行動している。すなわち、英語を母国語とし(またはそれに近いレベル)、アメリカ合衆国の生活様式を共通に受け入れているのである。特にそこで生まれた者たちについてはそれが当たり前なのである。たとえば言葉についても、私はアメリカ合衆国に留学した経験があるがその留学中、英語を話せますか,または英語が上手ですねと言われたことは一度もない。話せて当たり前なのである。AITがこれと異なるのは多人種がそれぞれ自国の文化意識を保ちながら、共存している点である。勿論、共存するため共通語として英語を使っているが、英語を母国語としているものは少数派である。日々見られる各人の生活様式にいたっては本当に多様である。AITはバンコクの郊外にあり、近郊に衣食住を満たす施設がないので、ほとんどの者がキャンパス内に居住している。そのせいか、特にタイ文化から隔離された環境に、それぞれが自国の生活様式を取り入れて日々を過ごしている。インド人はサリーを着、ベトナム人はニョクマム(ベトナムの調味料)を料理に使い、中国人はウーロン茶を友人に振舞う等々である。

私は異文化摩擦を専門にしているが、国際社会で活動していこうという者にとって、若い時代における異文化経験は将来非常にプラスの効果がある。特に効果的なのはより多くの国へ行って、その国の人間に直に接することであるが、これは物理的に無理があるかもしれない。そういう意味ではAITへの留学はまさにこれに打ってつけではないであろうか。現に何人かの日本人留学生に会ったが、入学時にはみんなになじめずにぽつんとしていた者が卒業時にはみんなの中心になって別れを惜しんでいる光景を目にし、頼もしく感じた。

最近、AITは日本等からの援助の減少により、大学運営が大変になってきている等の話を聞く。自分を含めて日本人はなかなか国際社会で活躍できるような能力をつける機会に恵まれない。貴重なこのような場を持つAITをより発展させ、特に日本との関係をより密接にすることにより、より多くの日本人学生が留学できるよう、微力ながらお手伝いしたいと思う。


[AITでの活動報告]
須崎純一 京都大学大学院 工学研究科社会基盤工学専攻 空間情報学講座