ジェンダーと開発専攻:設立から今日まで

日下部京子
ジェンダーと開発専攻

ジェンダーと開発は、1991年に研究プロジェクトとして発足した。その後、講座として教育にも携わるようになり、1997年に正式に学位授与可能な専攻として認められた。現在(2005年)までに修士119名、博士17名が卒業・在籍している。1997年には専任教官1名、修士学生6名で出発したのが、現在(2005年)は、専任教官3名、客員教官2名、修士37名、博士16名までに拡大した。

日本政府のジェンダーと開発専攻への援助(WID講座支援)は、1995年に短期客員教官派遣と研究費の支給として始まった。その後、学生交換、専任教官の支援と拡大し、現在に至っている。ジェンダーと開発専攻のコア支援は、ノルウェー(NORAD)と日本政府によって成り立っているが、そのほかにも、国際農業開発基金(IFAD)、EU、DANIDAなどからの支援も受けてきた。

ジェンダーと開発専攻は、アジア地域でまだ不足しているジェンダー専門家(実践者・研究者)を養成することを目的として、3つの分野−(1)修士・博士課程の教育、(2)研究、(3)研究成果の普及及びアジアにおけるジェンダーと開発研究振興・実践への貢献−に活動の焦点を置いている。日本政府支援も、この3分野にわたっておこなわれてきた。

(1) 教育

1995年以来、日本政府は、客員教官の派遣を支援してきた。毎年、日本の大学から教官1名、“Gender, Technology and Economic Development”の講座を教えに1-2ヶ月の短期で来ていただいている。当初は、東京女子大学の村松安子教授、後に、東京大学の大沢真理教授がいらしており、現在はお茶の水女子大学の杉橋やよい教授がいらしている。また、2001年にはお茶の水女子大学の伊藤るり教授が、“Gender and Culture”の講座を数週間にわたって受け持たれた。大沢真理教授は、ジェンダーと開発専攻の博士学生6名の審査委員会の委員としても、貢献していただいている。

1997年にジェンダーと開発専攻を学位授与のできる専攻として立ち上げるにあたり、カリキュラム作成ワークショップがあり、日本からジェンダーと開発学関係の学者の方々 (原ひろ子先生、村松安子先生、大沢真理先生) にも貢献していただいている。

1999年からは、専任教官の支援も開始され、日下部京子が毎年3講座受け持っている。

このような教官支援は、ジェンダーと開発専攻の学生のみでなく、AITで開発学を学ぶほかの学生にもジェンダーを学ぶ機会を多く与えることになり、ジェンダーと開発学振興のためにも有効である。毎年、10人の専攻外の学生がジェンダーと開発専攻のコースをとって

ジェンダーと開発専攻の歴史はまだ浅く、また、日本におけるジェンダーと開発に関する高等教育機関が少ない中で、すでに1名、ジェンダーと開発卒業生が文部省奨学金を受けて、日本で博士課程に入学した。

(2) 研究

研究支援に関しては、日本政府の支援は教官派遣(専任、客員)を通してなされている。現在までに、アジア経済危機のジェンダー関係に与えた影響についての研究(国際労働機構支援、現在は、科研費のもとでの研究)、ジェンダーと地域開発(科研費)、ジェンダー主流化、ジェンダーと市場(ラオス中央市場の研究は、日本政府支援金で、地域間国境貿易研究はASEAN基金及びスイス研究振興センター(NCCR)の研究費)、ジェンダーと水産業などの研究がなされてきた。

(3) アジア地域におけるジェンダーと開発学振興及び実践への貢献

ジェンダーと開発専攻は、Sage publicationより学術誌 “Gender, Technology and Development”を年3回出している。編者は、東京大学の大沢真理教授、Institute of Social Studies, The Hagueのタンダム・トロン教授、及び元マラヤ大学教官で現在AITジェンダーと開発専攻の客員教官でもあるセシリア・ナン教授の3人の持ち回りである。また、副編者はAITジェンダーと開発の専任教官2人(日下部京子とベルナデット・レサレクション)である。現場を大切にした視点をもつ、ユニークな学術誌として、Sageからも、商業ベースにのれる学術誌として長期的な発行を期待されている。

日本政府支援金により、日本の大学とAITジェンダーと開発専攻の学生交換も行われ、双方のジェンダーと開発学振興に貢献している。AITからは、毎年2名が来日。当初は東京大学をベースとしていたが、2004年よりお茶の水大学が受け入れ口になっている。日本からは、毎年東大から1名きていたが、2001年からは御茶ノ水大学より数名の受け入れに変更された。御茶ノ水大学の学生は多少の補助金のもと、ほとんど自己負担で参加している。元参加者は、日本でジェンダーと開発関係のNGOを自分たちで作るなど活躍している。

ジェンダーと開発専攻は、また、JICAからのジェンダーと社会調査法研修の受け入れも2000年から毎年行っている。

そのほかにも、ジェンダーと開発専攻は、短期研修やワークショップ、国際会議などを通して、アジアにおけるジェンダーと開発学普及につとめている。メコン川流域国を対象としたGender and fisheries networkに関わるなど、リージョナルな活動への参加・支援、人材育成を重視している。

学外だけではなく、AIT内におけるジェンダー主流化にもジェンダーと開発専攻は、日本政府の支援のもと貢献している。2002年にAITの理事会の下にジェンダー平等パネルが設立された。ジェンダー平等パネルは、AITの外部有識者から構成されており、AIT内部のジェンダー主流化に向けてのアドバイスをする役割がある。AIT 内部には、このアドバイスを実行するジェンダー平等委員会がある。ジェンダー平等パネルの議長は大沢真理教授に任命されている。


[AITでの活動報告]
須崎純一 京都大学大学院 工学研究科社会基盤工学専攻 空間情報学講座