須崎純一の研究紹介

測量学を基礎に、衛星リモートセンシングや写真測量、レーザ計測等の計測、画像処理を通じて、都市を対象にした空間データや地図の生成に関する研究を行っています。

[業績表(簡易版)] [業績表(Researchmap)]

衛星リモートセンシング

三次元変動地盤沈下・土木インフラストラクチャの変状モニタリング

衛星搭載型のマイクロ波レーダである合成開口レーダ(Synthetic Aperture Radar: SAR)で取得された複数時期のデータから、地物の変動を推定できます。レーダでは、散乱体(主に地上の地物)から反射された信号を受信します。振幅と位相が反映された信号から複数時期のデータ間の位相差を計算し、位相差から変動量に換算します。二時期のデータからは、ある基準面からの相対的な高さが求められます(干渉SAR: Interferometric SAR または SAR interferometry (InSAR))。また二時期のデータから推定された標高データと、別途用意された標高データとの差を調べることで、二時期間に生じた地盤変動を推定することも可能です(差分干渉SAR: Differential InSAR (DInSAR))。

更に、多時期の画像を用いて変動速度を推定する時系列SAR(Time-series SAR)解析も広く普及しています。代表的な手法として、Permanent Scatterers Interfrometry (PSI) が挙げられます。干渉位相に含まれる大気による遅延や軌道の誤差による位相を、時間的、空間的な平滑フィルタリングを行うことで取り除き、変動速度と、標高データ (Digital Elevation Model: DEM) と散乱体とのずれを表すDEM誤差を同時に推定する技術です。

しかし、差分干渉SARや時系列SAR解析によって観測される変動は、衛星視線方向のみの一次元変動です。我々の研究グループでは、まず衛星が南から北へ向かう上昇軌道と、北から南へ向かう下降軌道という異なる軌道で取得されたSAR画像から、各々の変動ベクトルを求めます。それに加えて、例えば、国土地理院が運用しています、10 km~20 km間隔で設置されている電子基準点のデータといった、Global Navigation Satellite System (GNSS) の三次元変動測量結果も使います。GNSSのデータは東西、南北、鉛直の三方向の変動に分解し、クリッギング (Kriging)等の空間統計学の手法を用いて内挿します。それらの観測データに対し、衛星観測時の天頂角や相対方位角等を考慮して最小二乗法で解くことで、地上での三次元変動を推定しています。

関西国際空港の東西方向の変動成分 関西国際空港の南北方向の変動成分 関西国際空港の鉛直方向の変動成分

関西国際空港の東西方向(左)、南北方向(中)、鉛直方向(右)の変動成分。ALOS-2/PALSAR-2のレンジ・アジマス分解能3 mのUBSモードで、上昇軌道データ13シーン、下降軌道データ17シーンを用いた。

高速道路周辺の地盤変動の様子を解析した様子を下記に示しています。高速道路からの距離0~50 m、50~100 mの2つのグリッドを設定し、平均的な変動量を推定しました。時系列で変動を調べることで注意すべき箇所を絞り込むことができます。併せて、SAR画像を生成するシミュレータを用いて、対象とする地形がどの程度の精度で地盤変動を推定できるのか確認できます。また仮想的に軌道の向きが変わると推定精度にどの程度影響を与えるかも評価することができます。

高速道路周辺の地盤変動(期間1) 高速道路周辺の地盤変動(期間2)
高速道路周辺の地盤変動。(左)と(右)で解析の対象とする期間が異なる。
SAR画像シミュレータで想定する地形と軌道の関係 シミュレータで生成されたSAR画像を用いて時系列解析して得られた結果(回転角0°の場合)
SAR画像シミュレータで想定する地形と軌道の関係(左)とシミュレータで生成されたSAR画像を用いて時系列解析して得られた結果(回転角0°の場合)(右)。

都市密度推定

衛星搭載型の多偏波合成開口レーダ(Polarimetric Synthetic Aperture Radar: PolSAR)を用いて、建蔽率や容積率のような建物の密度を反映した指標を作成し、都市密度を推定する研究を行っています。通常、衛星画像や航空写真から3次元データを推定するには、同一地点を異なる視点から撮影した2枚の画像が必要になりますが、この手法では一時期の多偏波データがあれば高さを反映した都市密度を推定できます。そのため、統計データが不足する地域を含めた都市構造の比較に役立てられる可能性があります。

ALOS/PALSAR画像

人工衛星を用いて推定した都市密度分布図: (左)JAXAが打ち上げたALOS衛星に搭載されたPALSARセンサの4偏波データを利用して生成した都市密度分布図、(中)ZENRINのZmap TownIIを用いて生成した建蔽率、(右)同じく容積率。生成された都市密度分布図は建蔽率、容積率の両方の中間に相当する性質を持ち合わせている。

写真測量・画像処理

建設現場におけるリアルタイム三次元地図作成

現在、建設現場では省力化、効率化を目指して、Information and Communication Technology (ICT) を活用した技術開発が進められています。我々は、民間会社との共同研究を通じて、建設機械に取り付けられたビデオで撮影された動画像から、リアルタイムに高精度な三次元地図を生成、更新することを目標に研究を進めています。

実際に実験をしてもらいましたが、自分たちでシミュレータを開発して、任意の環境における動画像を取得し、その処理を試みています。最新の高速道画像処理アルゴリズム(例えば、ORB SLAM2やORB SLAM3)ではカメラの位置、傾きの推定や三次元座標の復元に失敗することが多いことが確認できました。一方で、二枚の画像から共通して写っている特徴点を抽出し、画像の平行化、視差の計算、相対的な高さの計算という古典的な写真測量の理論を適用すると、安定的に三次元座標を復元できることが分りました。

シミュレータで作成した建設現場 クレーン先端のカメラからの映像 復元された三次元点群
シミュレータで作成した建設現場(左)、クレーン先端のカメラからの映像(中)、復元された三次元点群(右)

また建設現場の安全性確保のために、人や車両等の移動体をリアルタイムで検知する手法も検討しました。深層学習でよく使用されるYOLOに、観測データを取り込んで各種パラメータを更新していくカルマンフィルタを併用して、効果的に移動体を検知できるようになりました。

移動体の高速検出例1 移動体の高速検出例2
動画像に映り込んだ移動体(人や車両)の高速検出例

3次元点群処理((航空機・地上)レーザ・航空写真)

フィルタリング、地盤高推定

航空機LiDAR計測により得られるデータは地表面と建物や樹木等の表面を含んだ標高データ (Digital Surface Model: DSM) であり、建物等の下面の地盤面データは取得できません。森林の樹高推定や建物モデル作成のためには、DSMから地盤面データが取得されていない部分を補間した地盤面だけの標高データ (Digital Terrain Model: DTM) を推定する必要があります。この処理は一般的にフィルタリングと呼ばれています。

我々の研究グループでは、これまでは困難であった傾斜が平坦、急峻な地形が混在した地域においても、地盤面データの抽出精度、および地盤面データが存在しない地点の地盤面高さの推定精度を向上するアルゴリズムを開発しました。従来の手法とは異なり、本手法では局所的に異なる最大許容傾斜値を自動的に推定するため、精確なDTM生成アルゴリズムとして有用性が高いといえます。

フィルタリングの対象地域1 LiDARデータ 推定された地盤高 (DTM)
スケールバー1
フィルタリングの対象地域2 LiDARデータ 推定された地盤高 (DTM)
スケールバー2
フィルタリングの対象地域3 LiDARデータ 推定された地盤高 (DTM)
スケールバー3
フィルタリングの対象地域(左)、航空機LiDARデータ(中)、推定された地盤高 (DTM)(右)

植生の自動抽出

地上LiDARで得られた3次元点群データから、後述する緑視率を推定するために、点群を植生と非植生に分類する手法を開発しました。ボクセルを分類の最小単位として、ボクセル内の点の散布状況を利用して、主成分分析から植生の形状を反映する特徴量を計算し、分類しました。その上で、多段階の空間スケールを用いて処理を組み合わせることで点群分類精度の向上を図りました。

地上LiDARデータから自動抽出した植生

地上LiDARデータから自動抽出した植生。緑はTrue Positive(植生を正しく抽出した結果)、青はTrue Negative(非植生を正しく抽出した結果)、赤はFalse Positive(非植生を誤って植生として抽出した結果)、白はFalse Negative(植生を過って抽出できなかった結果)を表す。

景観指標推定

航空機LiDARデータや地上LiDARデータ、または車載搭載型LiDAR (Mobile Mapping System: MMS) データを用いて、建物や植生等の一切の地物による囲まれ感を表す囲繞度(いじょうど)を推定することができます。視野内に含まれる植生が抽出できれば、その割合を表す緑視率を計算できます。我々の研究グループでは、航空写真から植生を抽出したり、または地上LiDARやMMSデータから直接植生の分布を把握したりして、緑視率を推定する手法を確立しました。

航空機LiDARデータと航空写真を用いて推定した囲繞度と緑視率 MMSデータを用いて推定した緑視率

航空機LiDARデータと航空写真を用いて推定した京都市での囲繞度(左)と緑視率(中)の推定結果。(右)MMSデータを用いて推定した京都市東山区での緑視率。


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須﨑純一 京都大学大学院 工学研究科社会基盤工学専攻 空間情報学講座